ワインプロデューサーの大西 タカユキです。今日ご紹介する”ワイン”な映画は、1971年に公開された「007/ダイヤモンドは永遠に」!007シリーズの中でも人気の一作です。
とは言え、この映画、ぼくが生まれる前に公開されたので当然リアルタイムでは観ていません(笑)ストーリー中にワインが重要な役目を果たす映画としてかなり有名だと5年ほど前に知ってDVDで鑑賞することにしたんです。
そのシーンは、ストーリー終盤。豪華客船クイーン・エリザベス号に乗船するイギリスの秘密諜報部員007ことジェームズ・ボンド。そして、彼を殺害しようと犯人がソムリエに変装してルームサービスを運んできます。そしてついに、ボンドと偽ソムリエの会話に“本日のワイン”が登場します!
偽ソムリエはそれを知らなかった!
偽ソムリエ「55年のシャトー・ムートン・ロートシルトです。逸品です。」
ボンド「好かんな。君のアフターシェーブだよ。匂いが強すぎる。ワインは最高だ。
しかし、この食事にはクラレットが合う。」
偽ソムリエ「残念ながら当船にはクラレットが無くて・・・」
ボンド「これ(ムートン・ロートシルト)がクラレットだ。」
これは、オモシロイ!えっ?何がって??ですよね(笑)この会話を楽しむためには、「クラレット」の意味が分からないと!「クラレット」とは、フランスが世界に誇るワイン銘醸地ボルドー産の赤ワインの呼び名なんです。そして、この映画に登場する「シャトー・ムートン・ロートシルト」は紛れもなく「クラレット」!これで分かりました??そう、ソムリエなら「クラレット」の意味が分かるはずなのですが、偽ソムリエはそれを知らなかった!ボンドは、ソムリエが本物かどうかを「クラレット」というワイン用語で試したんです!もうひとつ、ソムリエはワインの香りを妨げる香りの強いものは絶対に身につけません。匂いの強いアフターシェーブもあり得ませんね(笑)このシーンのボンドは、かなりカッコいいので必見ですよ!
毎年有名な画家の作品がラベルに描かれる
「007/ダイヤモンドは永遠に」に登場する”クラレット”「シャトー・ムートン・ロートシルト」は、ワイン銘醸地ボルドーのメドック地区ポイヤック村から造られる高級ワインでフランス5大シャトーのひとつ。あのロスチャイルド家が所有していて、毎年有名な画家の作品がラベルに描かれることで有名です。例えば、1970年はシャガール、1975年はアンディ・ウォーホル、1988年はキース・ヘリング等々、コレクターズアイテムとしても大変人気があり、外見も中身もアートなワインです。ちなみに映画に出てくる1955年はフランスの画家ジョルジュ・ブラックの絵が描かれています。
1855年の時点で1級に格付けされたワインはたった4つ
もうひとつ、オモシロイお話が。ワインの世界で最も歴史と権威ある格付けとされている1855年のパリ万博の際に行われたメドック地区の格付けがあります。現在はこの格付けで1級の5銘柄を「5大シャトー」と呼んでいるのですが、1855年の時点では1級に格付けされたワインは4つしかありませんでした。そう、「シャトー・ムートン・ロートシルト」は2級格付けだったのです。この格付け当時のオーナーの曾孫であるフィリップ男爵は、2級格付けにどうしても納得がいかなかった!フィリップ男爵がオーナーとなってから何十年もの月日をかけ、フランス政府に対してあらゆる手を尽くして格付け見直しを訴えます。その結果、ついに1973年に2級から1級に格上げされますが、これは異例中の異例で、1855年の格付け以来約160年間のうち格付けが変更されたのは今でもこの1件のみです。ちなみに、記念すべき1973年のラベルは、あのパブロ・ピカソ!
ん??ちょっと待って。映画の公開は1971年!ということは、映画に出てきた時はまだ2級格付けですよね。ロスチャイルド家は映画さえも利用して格上げ工作を行った??と思うのはぼくだけでしょうか・・・。まさに執念!